
#32
私にないもの
末松大貴
「人生に影響を与えたバイブル的な作品(書籍、映像、演劇などなど何でも)」
うーん、困ったぞ。何かあったかなあ。あ、映像…といえば、アニメとかもありかな? テレビとかでも、「人生に影響を与えた作品」みたいな感じで取り上げられているし、ALCEは比較的自由な雰囲気もあるし、良いでしょ!
ってことで、思い出していたら、ありました、そういえば。
「ハチミツとクローバー」、通称ハチクロです。原作は、羽海野チカさんの漫画です。
以下、Amazon(https://amzn.asia/d/g7TnkVf)の紹介文より引用。
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6畳+台所3畳フロなしというアパートで貧乏ながら結構楽しい生活を送る美大生、森田、真山、竹本の3人。そんな彼らが、花本はぐみと出会い……!? 大ヒットシリーズ第1巻!!
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(ちなみに、白状しますが漫画の方は読んだことがありません…。原作ファンの方、ごめんなさい。いや、置くスペースがなくて…広い家に引っ越したら、買って読みたいです!)
(注意! 以下、物語のネタバレを含みます…!! ご了承ください)
(セリフや物語の内容は私の記憶の範囲で書いていますので、細部が違うかもしれません)
私がこのアニメを見たのは、大学2、3年生の時だったと思います。ちょうど、この物語の主人公、竹本君も同じ大学生で、住んでいるところや環境(作品は東京が舞台)は違っていましたが、いろいろ共感しながら見ていました。物語の主軸は恋愛(のはず)なのですが、それ以上に、当時進路に迷っていた私にとっては、登場人物たちが自身の今後を決めていく上でどのようなことを考え、どのように向き合っていくのかという姿が、自分と重なっているようでした。
中心人物の一人、竹本君は、美術大学に通う大学生です。かといって、将来芸術関係の職に就きたいという想いが強くあるわけではなく、ただ、手で何かを作るのは好きだ、という想いを信じて大学に進学していたのでした。その後、先輩や同級生、先生をはじめ、たくさんの人との出会いを通じて、恋愛も経験しながら、少しずつ、将来の進路を考え始めます。ですが、将来やりたいことが見つからず、何を目指しているのかもわからず…。で、ある日、自転車で当てもない旅に出ます。ひたすら北を目指し、途中、お寺の修復をしている建設関係のアルバイトも経験し、ついに、北海道の稚内に到着します。最北端、宗谷岬で見た風景は、「何もなかった、ただ、明るかった」のでした。その後、東京に帰り、またまたいろいろありまして、卒業後は、アルバイトで経験した神社やお寺の修復関係の仕事を目指すことにしたのでした。
ハチクロの中で、心に残っているセリフがいくつかあります。その中でも、特に印象に残っているものがあります。就活に苦戦する中で将来の進路に迷っていた竹本君が言った、「なぜ迷うのか、地図がないから迷うんじゃない、僕にないのは、目的地なんだ」というセリフです。このセリフは、初めてこのアニメを見た時も今も、強く心に残っています。
当時は、中学校時代からずっと「中学校の国語の教師になる!」と思っていたのが、大学での授業や教育実習を通して「本当に私がしたいのはこれなのか?」と迷いが生じている時期でした。かといって、教員養成系の大学だったのでその他の進路も考えにくく、そもそもそれまで学校の教員以外の進路を考えておらず、といった状態。それまで目指していた「目的地」がぼやけ始め、どこを目指して行けばよいのだろう、と迷い始めていた時期だからこそ、再び別の「目的地」を探そうと思うきっかけとなりました。その後、私も竹本君と同じように新しい「目的地」を見つけました。それが、今の日本語教師という仕事です。幸い、現在は日本語教師となっているので、一応、過去の「目的地」には辿り着いたと言えるかもしれません。
しかし。
上で「今も心に残っている」と書いたのは、実は「目的地」がまたぼやけ始めているからでもあるのです。
私は現在、30代。愛知県内で一人暮らしをしています。昨年度までは大学院博士課程。満期退学した後、今年度は大学で留学生対象の日本語クラスと、学部生対象のクラスをいくつか担当しています。任期制講師です。日本語教育歴はだいたい6年ぐらい。
では、今の私の「目的地」はどこ? と聞かれたら。
それは、具体的な居住地や職の話だけではありません(それも大事ですが…!)
うーん、私は結局何をしてどのように生きていきたいんだろう?と考えています。
今の仕事は、大変なこともあるけど、相変わらず授業は反省だらけだけど、好きです。有難いことに、職場の環境、人間関係にも恵まれていると思います。参加させていただいているやっている勉強会や読書会も好きです。
でも、そうじゃなくて。何かこう、目指しているもの、理想がないのです。
正直に申しますと、私には、日本語教育を通して、「○○な人を助けたい!」とか、「○○な社会を作りたい!」とか、そういう理念みたいなものがないのです。ない、というか、あるのかもしれないけど言語化できないのです。興味、関心がある分野はあります。本も、買っています、読んでいます。授業などのお仕事、頑張っています。でもそれは、人としての「目的地」ではなく、ただ本当に好きだからやっているだけで。ちょうど、ハチクロの中で、竹本君が「ただ、手で何かを作るのは好きだと思い、美大に行くことにした」と話していたことや、はぐみちゃんが、私にはやってみたいこと(“箱”に喩えていました)がたくさんあって、箱を開けるとたくさんの「?」が飛び出てくる、その箱を全部開けてみたいと話していたように、私も「日本語教育に関わるのが好きだから、日本語教育に関わる仕事をしている」という感じです。でも、今の私の「好き」は、どこか利己的なものに過ぎない気もしています。そのまた一方で、「それじゃダメなの?」とも思います。
思えば、そもそも中学校の国語の先生になりたいと思ったのも、小学校から国語が好きだったのと、中学校時代の担任で国語の先生でもあったある先生に憧れを持ったからというもので。
日本語教師を目指したのも、中学校の教員に迷いを感じある先生に相談したところ、日本語教師の紹介記事を読んで「これだ!」「好きかも!」と直感で感じたからというもので。
今まで、あまり自分の人生を真剣に考えてこなかったんだなあ…と、この歳になって反省しています(ですが、良いのか悪いのか、不思議と後悔はしていません)。
私は、日本語教育の何をしたいんだろう? どこを目指しているんだろう?
今は、竹本君の先輩、真山さんが言っていたように、「やりたいこと、とにかくやってみろよ、片っ端から、何でも」をモットーに、自分が「おもしろそう」と思うことには、いろいろ手を出したり参加したりするようにしています。実を結ぶかはともかく。そのうち、自分が本当にやりたいこと、「目的地」も見つかるのかな。それとも、一生見つからずに、うろうろぐるぐるするのかな。そもそも、6年ぐらい日本語教育に関わってきて何の理想も問題意識もないってどうなの?とまた反省です…。
大学に入学し、周りの人の才能や考えに圧倒され、やりたいことが見つからなかった竹本君。
迷いながらも、苦しみながらも、何とか「目的地」を見つけ歩き始めた竹本君。
その姿に励まされ、竹本君と同様「目的地」を見つけたと思った過去の私。
「目的地」を見つけたかと思ったが、竹本君の初期の状態に戻ったかのような現在の私。
今後私は、どんな日本語教育を目指すんだろう。日本語教育の「目的地」はどこなのだろう。
いや、そもそも目的地は日本語教育にあるのか…?
「答えなんざどーでもいい。ハナからそんなものはねーんだ『自分で本当に気のすむまでやってみたか』どーかしかないんだよ。」
竹本君が旅の途中でアルバイトをしていた現場で出会った棟梁のことば。
うーん、結局、これしかないんですかねえ。
…ん、ということは、私はまだまだ「本気」ではないということか…?
何だか、これを書いていてますます分からなくなりました。とりあえず、これが2025年2月現在の私の正直な姿ということで…。いつか、5年後か10年後か、これを読み返した際、そんなこともあったねと笑えるよう、頑張っていきたいと思います。
紹介した人:すえまつ だいき