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第17回

子どもでいつづける大人

お客様:日野市社会福祉協議会 日野市ボランティア・センター職員 宮崎雅也さん

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みなさんは、愛する「地域」というものがあるだろうか。そこに住民票がなくても好きで好きでたまらず、心と力を尽くしてよくしたいと望む地域があるだろうか。まきこママにはある。それも一つではない。生まれ育った地域、旅先で偶然出会い、その後頻繁に訪れるようになった地域、冬になるとちょっと長めに滞在する地域、今生活している地域、仕事で関わる地域などなど。
さて、今夜のスナックまきこのテーマは「地域」です。テーマが大きすぎるよね、なんのこっちゃ?

チーーーン。

宮崎:どうも〜!

 40代前半の男性がにこやかにエレベーターから現れた。

ママ:あらま〜、東京の西端の方からよくいらっしゃいました!
宮崎:八王子方面から新宿とか池袋に行く時って、 「都内に行く」なんてつい言っちゃいますよね。
ママ:笑。わかる、わかる。日野も都内なのにね。

 宮崎さんは東京都日野市にある日野市社会福祉協議会の職員である。主に市民によるボランティア活動のサポートをしている。ボランティアをしたい人、ボランティアを求めている人をマッチングしたり、ボランタリーな市民活動の相談にのったり、運営を手伝ったりしている。

宮崎:水割りお願いします。
ママ:いつもの知多ね?

 サントリーウィスキー「知多」。「山崎」や「響」のようにバカ高くなく、入手困難でもなく、ママも大好物の酒である。自分の水割りもちゃっかり作って、宮崎さんの前におつまみのミックスナッツとともにグラスを置く。そういえば、知多半島に一回行ったことがある。海がキラキラしていてメヒカリの唐揚げがおいしかったっけな、とママは思い出す。

ママ:宮崎さんは、どうして日野で仕事をすることになったの?             
宮崎:僕、結婚してからは日野市民じゃないんですけどね、生まれも育ちも日野で、実家がひいおじいちゃんの代から材木屋をやってるんです。それで、地域のお祭りや自治会のイベントに子どもの時から大人に連れられてよく参加していたんです。近所のおじさんたちが僕の面倒をみてくれて、近所付きあいが濃かった。
ママ:そうか〜、 日野っ子なんですね。福祉の仕事をしているのはなぜ?
宮崎:実はね、僕は実家の材木屋を継ぎたかったんです。それで、大学は建築学科に行ってたんですよ。
ママ:そうなの?
宮崎:だけどね、兄が実家を継ぐってことになって、どうしようってなりました。笑。
ママ:材木屋から福祉へシフトしたきっかけは?
宮崎:兄貴が家業を継ぐって決まってから、おじいちゃんの具合が悪くなって、病院に僕が連れていくってことが多くなりまして。さらに、友達に誘われて知的しょうがい者のボランティアなどしたりして、福祉の世界に興味を持つようになりました。大学は夜に通って、昼間はヘルパーとして福祉施設で働いてました。
ママ:そうなんですか。昼も夜も忙しい生活ね。
宮崎:大学卒業してから福祉の専門学校に通って、社会福祉士の勉強をしました。日野の社会福祉協議会に就職したかったんだけど、なかなか募集が出てくれなくて、府中のデイサービスで1年くらい仕事してました。その後、待ってた募集が出たから転職したんです。
ママ:意志を貫いてますね〜。今のお仕事の魅力って何ですか。
宮崎:人との出会いですね。
ママ:どんな人との?
宮崎:毎朝、黄色い旗降って登校する子どもたちを見守っている人っているでしょ、何十年も。ああいう人たちです。人を思いやれる、優しい人たちとの出会いに僕は恵まれています。僕の仕事は、市民活動を支援することなので、そういう思いやりのある方々の活動を盛り上げていくのが使命です。
ママ:感動的なエピソードなどありますか?
宮崎:印象的なのは、コミュニティ農園の「せせらぎ農園」の活動をされている方々の人への接し方ですね。農作業に誰でも受け入れている。高齢者、しょうがい者、誰でもです。

「せせらぎ農園」とは、市内で生ゴミを回収し、その生ゴミを栄養たっぷりの土に変える作業を経て、これまた栄養たっぷりの野菜を育てている任意団体である。オーナーさんから農園用の土地を借用していて、定期的に農作業の日にちが設定され、希望すれば誰でも種まき、苗の植え付け、収穫などさまざまな活動に参加でき、お弁当を持ち寄って空の下でみんなで食べ、その日に収穫した野菜を分け合って帰るというシステムをとっている。

宮崎:薬物依存症から立ち直ろうとしている女性たちをね、せせらぎ農園につなげたことがあるんですよ。農園のスタッフの皆さんはね、彼女たちのことを詮索したりはしない。ただ一緒に農作業するだけです。で、彼女たちが薬物依存症であることをカミングアウトするとね、「わかってたわよ」ってさりげなく言うんです。偏見というものを持っていないんですねえ。まるのまま受け入れている。ああ、人間だなあって思います。
ママ:「人間だなあ」って、ふだんなかなか呟けないセリフよね。そんなふうに、支えられたい人を支えられる人につなげることができるって、宮崎さんの得意技なのかしらね。
宮崎:ボランティア・センターの仕事ってね、成果が見えにくいんですよ。成績が表れるわけでもない。数字にできない、価値が可視化されない仕事だと思います。誰かが誰かに支えられるつながりって広がっていくと思うんだけど、追いかけられない。でも、人を見て、この人なら誰かのために何かができて、人とのつながりも広げてくれるんだろうなって想像はできます。
ママ:仕事で苦労したことは?
宮崎:苦労って思ったことないですね。確かに、ボランティアさんたちを取りまとめる時にちょっとした調整が難しく感じたこともありますよ。ボランティアさんたちの間では、街をよくしたいという強い思いから意見の摩擦が起こってケンカになることもあります。でも、それはお一人お一人が一生懸命だからですよね。
ママ:宮崎さんも日野っていう街を心からよくしたいと思ってますよね。お仕事、一生懸命ですもの。日野の魅力って何ですか?
宮崎:不完全な点です。
ママ:へ?
宮崎:まず、お金ないです。いろいろ完璧じゃない。だからこそ、行政に頼らず市民がなんとかしようっていう意識が高いんです。いろんなことにチャレンジできるんです。日野は人が魅力です。

 ふむ。そういえば、日野にはアウトレットもないし、テーマパークもないし、名勝といえば高幡不動尊と土方歳三の生家ぐらいか、、、。たしかに完成されているとは言い難い。

ママ:いい話が聞けたついでにもう一つ。大人ってなに?
宮崎:ははは。出ましたね、メインの質問。

 宮崎さんは水割りを一口飲んで喉を潤す。

宮崎:大人とは、子どもでいつづけること、ですかね。
ママ:んんん?
宮崎:「かっこいい大人」とはって言った方がいいですね。子どもってね、何にでも感動しますよね、純粋です。知らないことを知った時にワクワクしてる。何かに関心を持ち続ける、探究心を忘れない人がかっこいい大人だと思います。

ママ:なーるほど。無関心ほどつまんないものはないものね。それに、自分が誰かに関心を持たれなくなったら終わりだと思うわ。

地域を愛するというのは、ただ美味しい食べ物や酒がある、自然が美しい、気に入ったお店があるということだけではない。その土地にいる人々に関心を持ち、かれらに接して対話したいと思うからその地域を愛すのだ。


スナックマキコの大人エレベーター。それは、様々な文化を育む大人が場末のスナックに語りにやって来るエレベーター。次回はどんな客が訪れ、何を語るのだろうか。乞うご期待!

(了)

文 東のマキコママ
​イラスト 西のマキコママ

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